2017.08.05 蚊…
p259
形が「か」みたい
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モモコ2nd ダブルピンチスタンバイ
9話 「悪夢のまた悪夢 もう一人の林檎子スタンバイ」

その夜、林檎子はひどく厭な夢を見た。
夜の遊園地、観覧車の七色のネオンも消え、メリーゴーランドも眠ったかのように動かない。
夢の中の林檎子はまだ幼い女児であった。
もう一人の登場人物、母親とはぐれたブタさんの子で名前は『モモペエ』という。
林檎子がその昔とっても可愛がっていたコブタのヌイグルミだ。
林檎子は今にも泣き出しそうなモモペエの手を引いて遊園地内を歩き回り、懸命にモモペエのお母さんを捜していた。
「モモペエのお母さーん! どこにいるんですかー! 可愛いモモペエはここにいますよー!」
声の限りモモペエのお母さんに呼びかけ、あちこち園内を探し回ったが、反応や手掛かりは絶無であった。
そして林檎子も疲れ果てションボリ心細くなってきた頃合いに、もう一人の登場人物が登場した。
それはサーカス小屋の裏手から現れたピエロの格好をした何者かであった。
そのピエロはおどけた足取りで二人に近づくと、大きな手振りで帽子を胸に一礼すると先ずは親愛のポーズをしてみせた。
「僕はブタさんのお母さんの居場所を知っているよ! これから君たちをお母さんの所に連れてってあげよう。僕に任せてついてきてよ!」との旨をパントマイムをもって二人に伝えた。
「ホント! ありがとうピエロさん!」
「ぷー!」
林檎子とブタさんは手を取り合って大喜びでそのピエロの後についていった。
「どういたしまして……」といったジェスチャーのピエロの笑顔の仮面の奥の目が怪しい光を帯びたのを二人は知らない。
林檎子とモモペエはしばらくピエロに従って歩き、そして真っ暗な倉庫の中の地下室へと連れていかれた。
急にピエロは怖い目で振り返ると、すでに不信と不安で立ち竦んでいる林檎子とモモペエの手を力いっぱい引っ張った。
「いたい! いたいよピエロさん!」
そして鉄格子のある暗い部屋に二人を乱暴に押し込むと、すぐさま大きな鉄の扉の鍵をギイ、ガチャンと掛けた。
「何するのピエロさん、出してー! ここから出してー!」
「ぷー!! ぷー!! ぷー!! 。。。」
扉を叩いて泣きわめく二人をよそに、その悪い一面を見せたピエロは、いつの間にか現れた怪しい老人と何やらヒソヒソ話を始めた。
「ブタはもっと太らせてトンカツやトンソクにして食べてしまおう。女の子は裸にして蝋で固めてお人形さんにしてマニアに転売でもするとしよう」
などとキヒヒと笑いながら恐ろしい企みを老人と交わしていた。
ピエロは幾ばくかの金貨を老人から受け取ると、さも満足げに仮面をとってその素顔を見せた。
そのピエロの正体に幼い林檎子は強い衝撃と恐怖に全身が凍てつく想いがした。
なんと、なんとその顔は現実の林檎子とウリ二つの少女であった。
その林檎子似の少女の冷たく残忍な笑い顔は、実の林檎子本人にも反吐が出るほどの嫌悪を込み上げさせ、慟哭の余韻にも似た感情と共に真夜中にもかかわらず最悪の目覚めを彼女にもたらせしめた。

変な夢だったと、その後寝ずにいた林檎子は、朝の食堂でちっとも箸が進まぬまま、当の夢のシーンを何度も再生し分析解釈していた。
朝から食欲旺盛な黒荊侯爵こと父才蔵は機嫌よくお喋りを始めた。
「なんだ三輪子は朝から外出か? 林檎子のおかげですっかり元気になったものだな。それに引き換えどうしたのだ、林檎子……。身体の調子でも悪いのか? 連日の社長業務はやはり大変ではないのか。今日は会社も休日だろうからゆっくり休むといい!」
林檎子は先週の黒荊財閥株主総会の決定のもと黒荊製薬代表取締役に就任していたのであった。
「ご心配いりませんわ、お父様。社長の業務自体はさしてハードというわけではありません。今月中には国内市場を独占し、来月には世界市場に進出する計画も予定通りです。業績の上方修正が追い付かないくらいで……」
「はははは、頼もしいな林檎子は」
と才蔵の後に、紀緒彦も林檎子にねぎらいの言葉を送った。
「そうか、林檎子さん苦労してるんだね。さすがにいきなりの社長さんは大変だと思うよ。……そうだ林檎子さんちょっといいかな?」
「何用でしょうか?」
「うん、前からこれを林檎子さんに渡そうと思ってて……」
「……」
と紀緒彦は後ろ手にしていた可愛いリボン付きの包み紙を林檎子に渡した。
林檎子は無表情を装い封を開けてみると、中にヌイグルミが一つ入っていた。
奇しくもそのヌイグルミは、なんとコブタの……。

「(モモペエ!!)」

林檎子は絶句した。そう、確かにそれは昨夜夢に登場したゆるゆるなキャラクタのコブタのヌイグルミ『モモペエ』であった。
ここで林檎子はモモペエについての記憶をすべて思い出した。それは昔林檎子が実の母親幸江からプレゼントされた大切な思い出の品であった。
品というよりモモペエは幼少の林檎子の大事なオトモダチであった。しかし大英利王国へ行くときに惜しくもモモペエを失くしてしまい、涙のお別れをしてしまっていた。
そのとても思い入れの深いモモペエと同じブタさんのヌイグルミを最愛の兄が再びプレゼントしてくれたのだ。
飛び上がらんばかりの嬉しさが涙、鼻水などとともにこみ上げそうになった。
ここで林檎子は普通に「ありがとう」の一言が言えればいいのに、どうしたものか代わりに口にしたセリフは、

「平川! 焼却炉!」

とそのモモペエを執事の平川のほうへと放り投げた。
平川は大仰にキャチすると、「かしこまりましたお嬢様!」とモモペエを抱てフットボール選手のように駆け出した。
なんとも残念そうな紀緒彦に才蔵の嘲笑まじりの言葉が掛けられた。
「むははは! そりゃそうだ紀緒彦よ! 林檎子は大企業の社長を務める立派な大人のレディなのだぞ。プレゼントにしても子供のおもちゃはないだろ(大笑)」
「アタシにしてみれば、会社の経営も子供のおもちゃのようなものですけど、フフン(微笑)」と林檎子がまた驕慢な軽口を叩いた。
「むははははは! 林檎子にはかなわん! これは参った! 畏れ入った! むははは」と才蔵は大層機嫌よく笑い、膝を叩いてツボっていた。
ヤレヤレといった表情の紀緒彦が続けて林檎子に屈託なく語りかけた。
「かといって、林檎子さんに高価な洋服や宝飾類を学生の身分の僕には送ることは難しいし、せめてもの気持ちというか、社長さんに就任して大変だろうから僕なりに力になりたいけど、優秀な妹林檎子さんにして上げられることなんて本当に限られるだろうし……。そうだ、悩み事なら聞いてあげれるかもしれない。林檎子さん今、何か悩んでることがあれば聞かせてくれないかな」
「…………ふう。(悩みはすべて貴方の事だけです、紀緒彦お兄様……)別に……、何も……。では、アタシ用がありますのでこれで」
「あっ、それと林檎子さん」
「まだ、何か?」
「あと、これから「林檎子」っ、て呼んでもいいかな? 兄妹なんだし……」
「好きに呼べばいいんじゃないかしら。兄妹なんだし……」 
と林檎子はそれだけ言うと紀緒彦に一瞥もくれずに食堂を出て行った。

「(危ない、危ない、危うくもう少しでデレるとこだったわ)」と内心呟き、すぐに血相を変え一目散に庭先へ飛び出していった。

――「フウー」と庭で堀部真樹太が溜息まじりのアホ面で、離れの焼却炉まで処分する草木を運んでいると、ふいにお屋敷二階にある林檎子の部屋の窓を眺め、
「林檎子お嬢様、今頃何しているのだろう……」
などとホワホワモンモンと懸想していたそのとき、
ガタ、ガタン! 「ぶはああ!!」
いきなり大型の焼却炉の内側から扉が空き、中から真っ黒な人影が目の前に飛び出してきた。
真樹太は「うわああ!」と驚いて、その場にへたり込んでしまった。
「平川のボケっ! 一回焼き殺してやる!」
とぶつぶつ言いながら黒焦げのヌイグルミのあんよ(トンソクと化したモモペエ)を手に現れたのは、全身まっ黒黒の煤まみれの令嬢、林檎子であった。
真樹太は林檎子を本人と確認すると、さらにびっくりし、「あわあわ、林檎子お嬢様! 一体なんでです!?」と激しくうろたえるばかりであった。
「うん、ちょっとな…」ブスブス、「……ん、わうわ、アチ、アチチチチ!」
すると燻ぶった残り火が林檎子の衣服に引火し炎上しだした。
「アチ、アチ、アチ、水ー! 水ー!」
「ただ今、林檎子お嬢様!」
「早く! 早く! 早くしろ童貞!」
「では、お嬢様失礼します!
シャパーン!
林檎子が火のついた服をパタパタと脱ぎ捨てると、絶妙のタイミングで真樹太が桶の水を彼女の頭からブっ掛けた。
「はあ、はあ、燃え死ぬかと思った……」
「確かに僕もモエ死ぬかと……(チラ)」
「ん!? 何見てんのよ……」
「いっ、いえ! 何も!」
そういうと真樹太は水でズブ濡れの下着姿の林檎子から泳ぐように目を逸らした。
林檎子は怪訝そうに真樹太を見据えると、
「そういえば、例の花どうなった?」
「は、はいっ、一つの蕾がかなり大きくなりました。今日明日には開花しそうです」
「何、本当かっ!」
「はい、林檎子お嬢様!」
「よし、これからお風呂入って着替えたらすぐに見に行く。でかしたぞ童貞野郎!」
「ありがとうございます、林檎子お嬢様! ところで再びお聞きしますが童貞とは何ですか? 留依子姉さんも知らないとのことでした!」
「ああ……、そうか、そのうち教えてやる……、そのうちな……」
「はい、何卒お願いします!」

――30分後

「たった今、咲きましたそうです! 林檎子お嬢様!」
「早いな! 本当か?」
身体の煤を落とすため入浴中だった林檎子は真樹太の報告を受けた留依子の伝言でお風呂場から飛び出してきた。
お風呂上りの薄着の林檎子はキラキラ輝く肌に高級なシャボンの香りを伴って、
後を追う真樹太の眼と鼻にちょっとした至福のひとときをもたらしていた。
しかし、林檎子がガラスの温室に入るやいなや事態は一変し。
「咲いてねーじゃねーか! このホラ吹きボケ童貞がっ!」
といきなり林檎子が真樹太のド頭を小脇に抱え、プロレス技でいうヘッドロックの体勢で頭部を締め上げた。
「あ、イテテテテテテテ! あれ、おかしいなあ、さっきは確かに咲いていたのに……」
技を極められ側頭部の痛みを堪えながらも、心なしか三度幸せそうな真樹太であった。
そんな様子を温室の外の物陰から見つめる謎の影があったのをこちらのご両人は気付くはずもなかった。

その夜、林檎子は行きつけの銀挫のバーの帰り道、ネオンが明滅する大通りの交差点で迎えの平川の車を待っていると。
道路に並ぶ鉄道の高架ガード下の闇に閉ざされた一角があった。何故か妙な気脈を感じ、半ば好奇心と気まぐれでその方へとふらりと足を向けてみた。
アーチ状の開口部の中の空間は意外と広く、人気こそなかったが浮浪者や野良猫の格好のねぐらに適すであろう物件であった。
すると、暗がりの鉄柱の陰から声がした。
「もし」
「……」
林檎子は特に驚きもせず、声のする方向へと目を遣った。
「そこにおられる 黒ゐ御服の とてもお似合ゐな 御嬢様、ひとつお花は 如何でさうか?」
との売り口上を掛けてきたのは、ちょうど林檎子と同い年くらいの少女であった。
「……!」と林檎子はその身なりの良くない、花売りの少女に素っ気ない視線を送った。
「このお花、きっと気に入るに決まってますよ、黒荊林檎子お嬢様……」
「っ……!?」
林檎子は自分の名前を知られていることにも驚いたが、それ以上にその眼前に差し出しされたその花を見て非常に興奮せざるを得なかった。
それもそのはず、なんとその花は林檎子が現在栽培に夢中となっている『享楽の花』その現物であった。
「貴様! この花を何処で!」
と林檎子は強い口調で花売りの少女の胸倉を掴んだ。その刹那僅かな街灯の儚い光に照らされた少女の顔を見てさらなるショックを受けた。
その顔は林檎子、昨晩夢で見たピエロの少女、林檎子とウリ二つによく似た悪しき夢幻の中の少女の顔であった。
そして林檎子は得体の知れぬ感覚に震えが止まらず、体が凍ったように動かなくなってしまった。その間にすうとその少女の姿が消えた。
「林檎子お嬢様。誰とお話されてたんです?」
と気付くと背後に平川が怪訝そうな顔で佇んでいた。
「いや、何でもないんだ……」
とだけ林檎子は答えると、手にしていた一輪の『享楽の花』を不思議そうに眺め入った。

翌日、林檎子は会社を休んで、帝都の下町の更に外れにあるとある場末の横丁を訪れた。
辺りはいわゆる貧民窟と呼ばれるエリアで、住民がジロリと林檎子を見つめヒソヒソ話をしたり、物乞いにすがりつかれたりと生まれながらに勝ち組&金持ちお嬢様オーラを纏った林檎子にはおよそ場違いと思われる一角であった。
しかし林檎子には何故か不思議とこの街に懐かしいような心落ち着くような空気を感じとっていた。
横丁のさらに路地裏には園花神社という小さな神社があり、その境内に隣接する形で一軒バラックの小屋があった。
派手な看板とのぼりには見世物小屋の文字があり、「ヘビ少女」や「大いたち」などのおどろおどろしい絵や文字が掲示されていた。
「恩田座……。ここね」
林檎子は昨日の晩、例の花売りの少女から受け取った『享楽の花』をラッピングした広告の紙、そのチラシに印刷されてあった「見世物小屋 恩田座 閉店キャンペーン大公演」の文言を手掛かりに単身恩田座に訪れたのだ。
「すいませーん!」
入り口の簾をかいくぐり林檎子は劇場内に立ち入った。
時間が早かったのか、灯り一つもなくステージの幕は閉じたまま、他の客の姿はおろか従業員と思われる者の姿もなかった。
しんとした場内に関係者を捜そうとキョロキョロ辺りを伺っていると、突如何の前触れもないままステージの幕が上がっていった。
ここで林檎子はなんだかひどく厭な予感がしてきた。
舞台の上に一人の少女がまさに平身低頭その身を伏せていたのが見えた。
座蒲団の上に和装の出で立ちからして、その少女は落語か浪曲などの話芸の芸人と見てとれた。
林檎子はふんと仁王立ちのまま舞台の少女を凝視した。
すると朴訥に舞台の少女が顔を伏せたまま喋りはじめた。
「ええー、妹が実の兄に惚れてしまうなんて話は~、よくラノベなんかではあることですが~、ここ東幻京は音羽ヶ谷のお屋敷にお住まいのとあるお嬢様が実の兄様に惚れてしまいました。そこでちょいと小ズル賢いお嬢様、とある不思議な花から惚れ薬を作ろうなんてことになりましたから、ここからが騒ぎの始まりでございます!もともとメンヘラ陰キャサイコパスの恋慕ほどこの世に迷惑千万なものはございません!! お兄様だけではなく周りの親戚縁者ならび関係者、いやしまいにゃあ国家を巻き込んでの大騒ぎの始まりです!」
とここで今まで顔を伏せていた噺家ゼンとした少女が顔を上げ、覗き込むように独り客席の林檎子と視線を合わせた。
「っ…………!!!」
林檎子の厭な予感は的中した。
その少女のは、例の夢に出てきたピエロ、そして現実世界に現れた花売りの少女、林檎子とウリ二つの悪夢の少女であった。
林檎子はその顔を目にすると即刻に冷ややかな殺意が沸き、傍にあった長椅子を大きなモーションで振りかぶり、今にも全力で高座めがけてブン投げようとしたその瞬間、

「林檎子ちゃん!?」

と自分の名を呼ぶ女の声がした。
そこにはブラウスとジーパン姿(通販のカタログのような)の大人の女性が佇んでいた。
その女性の顔を見たとき、またもや驚いた林檎子は「はっ……」となり長椅子をその手からゆるりと降ろした。
これも夢の続きかとも思われたが、あながち林檎子似の謎の少女のような厭な感情の嫌悪感や悪夢感はなかった。
それどころかじわじわ胸に込み上げる嬉しさ、喜びといったハートフルな気持ち。本来のイイ意味での夢のような心持になった。
当の壇上の林檎子似の謎の少女は忽然と姿を消したが、もはやそれは林檎子にとって意識の外であった。
「林檎子ちゃん、本当に林檎子ちゃんなのね!」
「…………」
言葉を失った林檎子は、次の瞬間不意にその女性に抱きしめられた。
「会いたかったわ、林檎子ちゃん!」
その温もりに包まれた林檎子は、思わず彼女の名を呼んだ。
「お母様……、幸江お母様……」
その女性は奈美幸江、旧姓恩田幸江で林檎子の実の母親、モモコの母幸江本人であった。

その翌日、処変わって草浅のビルの最上階にあるやや高級なレストラン。
林檎子と幸江はテーブルを挟んで数奇な運命で結ばれた母娘の改めての再会の場を設けた。
幸江はいくぶん潤んだ瞳で絶え間なく慈愛の微笑みを娘の林檎子に注いでいた。
林檎子は不機嫌そうにそっぽを向いていたが、もちろんそれは標準装備のツンデレ仕様によるもので、その実、嬉しさのあまりキャラ崩壊を限界で堪えている最中であった。
それも無理もない、天然クールキャラの林檎子とて生き別れたその日から母を思わぬ日が一日も無かったわけでもなく。
ましてや海外での天蓋孤独であった林檎子もいつかは会いたいと心の拠り所にしていた瞼の母との夢のような再会であった。
後に希代の天才鬼畜少女と呼ばれる林檎子にも、まだこの時分は母を慕う感情は十二分に持ち合わせていたのであろう。
ましてや女神さまか観音さまのような母親力の高いユキっぺであれば尚のことであった。
しばし無言の二人であったが、ここで母幸江は紙で包まれた可愛いリボン付きのプレゼントを取り出すと、
「林檎子ちゃん、これ、……覚えているかしら」
と林檎子の前に差し出した。
林檎子は無造作に封を開け、中身を取り出すと、
これが、なんとまたしても奇しくも、コブタのヌイグルミ……、

「(モモペエ!!)」

またも林檎子、飛び上がらんばかりの嬉しさが涙、鼻水とともにこみ上げそうになった。
またも林檎子、当然ここで感激のあまりに緊急ツンデレモード発動す!
窓からヌイグルミを眼下の隅野川めがけ全力投球……。

「え?」と唖然とする幸江に林檎子は「ふう」とため息をつき、加えて、かくも残酷な言葉を母幸江に言い放ってしまうのであった。
「お母さま、本題に入りましょう! はいはい、分かっているわ! なぜアタシを捨てたお母様が今更アタシの前にノコノコ現れたか!」
「……?」
「これが目的なんでしょ!」
と林檎子はバッグから札束をいくつもテーブルにどかどか並べ始めた。何事かと周りのお客の注目が集まった。
「林檎子ちゃん、何を言ってるの?」
「だってそうでしょ、アタシを捨て猫みたいに放り去った人が、今更アタシを必要とする理由なんてどうせ決まってるもん!」
図に乗った林檎子は腰を浮かせると、無礼にもその札束で母幸江の両頬をビタビタ叩き出した。
「素直に言いなさいよ! 知ってんのよアタシ、あっちでの生活が苦しいんでしょ? モモコとかいう新しい子だっているんでしょ! その可愛いいモモコのためにもお金は必要じゃないかしらん。どうせアタシにはもう用はないンでしょ! だったら恰好つけずにこのお金が欲しい言っていいなさいよ! さあ! さあ!」

パシーーーン!!

「子供のすることじゃないでしょ!!」
立ち上がった幸江が林檎子の横顔を強くぶった。

パシーーーーーン!!

「親みたいなこと言わないで!!」
間髪入れず林檎子が幸江の横顔を強くぶち返した。

そして愕然と座り込む幸江の面前に札束を叩きつけると、その勢いでバラバラになったお札が窓からの風でお店の宙を舞った。

「おわあああ」
「なんだ、何があった?」
「おいおい金が、金が降ってるぞ」

店内はガヤガヤと騒然となった。

「フン!」
林檎子は店員にも札束を叩きつけるとそのまま店を出て行った。
幸江がハラハラと涙を流す姿がドアのガラスに映った。
「(まったく女ってやつは泣けばいいと思ってるから厄介だ。幸江といい、あいつ(留依子)といい……。フンっ! まったく女ってやつは……)」

その夜。
草浅の隅野川上に数隻のボートが浮かび、何やらミッションを遂行しているようであった。
そのミッションは『モモペエサルベージ作戦』であった。
それは黒荊林檎子が号令し、黒荊家執事 平川陣頭指揮のもと筋肉隆々の兄貴(水中仕様=海パン装備)たちが、鵜のように綱につながれ川底のモモペエを捜索する作戦であった。
「絶対見つけろ! ここに無ければ、川を下って東幻京湾からマリワナ海溝まで隈なく探せ!」
シンクロナイズドスイミングのポーズで兄貴たちは了解の意を表すも、みんな一様にその目は死んでいた。
その様子を眺めつつ林檎子は駒型橋から水面に浮かぶ月影に語りかけた。
「(モモペエ……。アタシはとても大切なものを失くした気がする。アタシが、アタシ自身が次第に分からなくなっていく……。幸江お母様、そして紀緒彦お兄様……。ああ、アタシ林檎子は……。鬼畜に……。このまま血も涙もない鬼畜になってしまうのでしょうか……。。。)」

その様子を向こうの橋から満足げな微笑みで見つめる、もう一人の林檎子(例の悪夢のほう)がいた。
p258
ここから始まる鬼畜少女オデュッセイア?
p257
名前、年齢---夕月鶴子(35)
ニックネーム-完璧寝技主義者
身長、体重---170cm/58kg 
BWH----------88/58/92cm
血液型-------A型
所属---------亡魂女子プロレス・正規軍
得意技-------チョークスリーパー、腕ひしぎ逆十字固め、STF、
 アキレス腱固め、乱れ夕月逆艪崩し、六道輪廻巡り
出身地-------京都府
スタイル-----柔道、総合格闘技
人物---------亡女の専務取締役にして、社長上原五十鈴の親友かつ長年のタッグパートナー。
最近上原がリングに上がらないので、代わりにメインを張ることが多い。寝技最強の呼び声高い。
京大卒のインテリで、特にグランドを中心とした頭脳戦に長ける。リング上では怖いお局さんだが、
本社の事務所内では良いお母さん的な一面もある。いつもよくわからない難しい本を読んでいる。

p256
夏だ! 海だ! 暑いだけだ! 皆サマには良いサマーをお過ごしください
p255
名前、年齢---ダークブレイド・ムザン(?)
ニックネーム-最終兵器忍者彼女
身長、体重---168cm/55kg 
BWH----------85/57/88cm
血液型-------?型
所属---------亡魂女子プロレス・煉獄党
得意技-------各種当身・蹴り技、各種空中殺法、
 各種忍法(金縛り、煙幕など、但し反則)
出身地-------?
スタイル-----忍者
人物---------亡女の結城明日香のもう一つの顔でヒール集団煉獄党のメンバー。
経緯は定かではないが、結城がアメリカ遠征中にこの忍者スタイルで人気を博したのがきっかけとも。
ベビーフェイス時には封印している古武術の各種殺人技を解除し、
抑圧された破壊衝動も80%ほど解放していると本人の中二病コメントあり