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なんか不思議な町のモモコ 

14話 悪魔のインビテーション 鬼畜お誕生日会なう! 

「ついに来たわね、モモコ!」
「林檎子お姉ちゃん!」
モモコが壮麗な黒荊家の屋敷の玄関先に立つと、上階のバルコニーから黒荊林檎子が姿を現せた。
二人はしばらく無言の思惑のままその場で対峙した。
にわかに空が重い雲で覆われ、つむじ風が土煙を嗾けた。
今ここにモモコと林檎子の運命のバトルに決着をつける時がきたのだ。

 その日の朝、大亡魂帝国の暦による10月25日の朝が来た。
今のモモコの心境に反して、雲一つない秋晴れの空は、なんだか白々しいほどのよそゆき顔に思えた。
「ちえっ、帝都新聞やつひでえことかいてやがらあ」
大木友太のボヤキ言が帝都軍本部の娯楽室から聞こえた。
この場所はぽ平次やのぶチン教授らのモモコ繋がりの仲間が顔を揃えていた。桐島の計らいもあって、恩田座亡き後、一同の居場所となっていたのだ。
「ん、大木氏、ひどいって何がだい?」とのぶチン教授が大木友太の読んでいた新聞を覗き込むと、
「見てくださいよ。ノブちん教授。ここに載ってるおとといの恩田座の記事」
「なになに、『恩田座全焼4人死亡。遺恨による放火か? それとも無理心中か?』って、事故扱いかよ! 真相のブーヒン一味のことは全然ふれてないじゃないか」
「検討ちがいもはなはだしいですよ。何をどう取材してんだか。本文がまたさらに酷いんすよ……」
「『恩田音太郎は軍部から身寄りの無い幼い女児を金で買い、あられもない格好をさせて舞台に上げアクドク儲けていた』か、うーん、あながちウソではないけど……、しっかしこの恩田のおじさんとマチコおばちゃんの写真、いかにも悪人ずらしているなあ、これじゃあ読者の大半は誤解しちゃうよ。『モモコちゃんは行方不明』。へえ、新聞発表ではモモコちゃんは行方不明となってるんだ。」
「そのモモコちゃんの行方のくだりだけは自分らが手をまわしたんだけどね。」とドアを空けながら桐島少尉と肝田伍長が入ってきた。
それについて桐島が補足の説明した。
「現在モモコちゃんの身柄を情報二局が確保しているということは軍事機密扱いだからね。マスコミや世間には秘密だよ。いわゆる情報統制ってやつさ。相手は天現時閣下さえ命を狙うほどの大胆不敵なブーヒン一味、いや、元締めは黒荊林檎子だからね。うかつにモモコちゃんの居場所は教えられないね」
「さすがは、桐島君用心深いね。ん、黒荊林檎子だって……」
「どうしたんだい? ノブチン教授」
「こ、これ、この記事の下にある、新聞の尋ね人の欄」
のぶチン教授がいくぶん興奮しながら新聞を指差すと、桐島と大木と肝田が覗き込み、みなの隙間からぽ平次が右に左に覗き込むと、
「尋ね人 奈美桃子様 どこに居るの心配です。母上の幸江も一緒に心配してます。連絡してください。生き別れの姉 黒荊林檎子より」
と誌面の広告欄に三行広告が掲載されていた。これを見たのぶチン教授と桐島らは不安気に顔を見合わせた。
「……恩田座の記事の下にこんな広告を載せるなんてなんだか偶然とは思えない。帝都新聞のスポンサーとして黒荊製薬は絶大だし、なんだかキナくさいんだよな。裏でものすごく怖ろしい陰謀がうごめいているような気がする」のぶチン教授が不安げに意見を述べると、
「ああ、自分もそう考えている。そのXディーが今日だとしたら……」桐島は窓の遠い空を見上げながらそう言った。
「今日がそのXディーだとする根拠は?」
とその問いには珍しくぽ平次が口を挟んだ。
「今日び10月25日は林檎子の奴っこさんの15歳の誕生日でさあね。15歳といえば元服の齢。もともと武家の家系の黒荊家だけに林檎子の奴っこさんが何かとんでもねえことをやらかそうと撃ってでるには今日という日がまさに記念日にして吉日のえっくすでえーってヤツじゃねーでやすかね?」
「…………」桐島が無言で頷いた。
「ぽ平次氏詳しいなあ。でも林檎子はいったい何をしでかそうと……」
「林檎子の最終目標は全人類の抹殺と世界の崩壊……」と桐島が言いかけると、
背後にある部屋のドアが何者かによって開かれた。
みんなが一斉に振り返ると、そこにはまさにあの子の姿があった。
モモコであった。寝巻き姿のまま半開きの扉にもたれてやっと立ち上がっているといった感じであった。
いつもの元気なモモコの明朗快活さは微塵もなく、それどころか青ざめた顔色とまっ赤な目が痛々しい程であった。
「モモコちゃん…」一同が心配そうにモコに声を掛けると、
「アタシなら、もう平気なの」とモモコは力なく笑ってみせたが、ヨロケた肩が無理を語っていた。

 とそのとき、そのタイミングで、部屋に備え付けの内線電話が不穏に鳴った。
桐島が訝しげに受話器を取り、受付の交換手から相手の名を告げられると、彼の顔色が驚愕のあまり強張った。
そして桐島は慎重な態度でみんなに人差し指で「しー」の格好をすると。
「黒荊林檎子からだ」と小声で伝えた。
その瞬間、その場の空気がさあーと凍てついた。特にモモコは固唾を飲み込み目を見張った。
「黒荊林檎子と申します」とやおら畏まった少女のきれいな声が電話口から聞こえてきた。
「はい、自分は帝国軍情報二局の桐島と申します。どのような御用件で御座いますか?」と桐島はわざとらしく事務的な口調で答えた。
「そちらに奈美桃子ちゃんはいらっしゃいますか?」
「……はい?、なみ、ももこさんですか? ……さて、当方ではそのような人物は存知かねますが、大亡魂帝国軍の関係の方でありますか?」などと桐島はシラを切ることにした。
すると「(プツ)」と電話機越しに何かがブチ切れるような音がしたかと思いきや、
「すっとぼけんじゃねーよ! このボケ軍人が! モモコのブスだせってんだよ! そこにいるのはとっくにわかってんだよ! コンチクショー! コッパ役人が舐めたこと抜かすとタダじゃおかねーから覚悟しろよテメーこのヤロー!」といきなりキャラが変わり(素の林檎子に戻り)強烈に凄んできた。
しかし、桐島も知らぬ存ぜぬの一点張りで、管轄外だから尋ね人なら警察に聞けだの、逆にブーヒン一味の対応で忙しい、何か情報を知らないか? などと終始すっトボケ倒し、執拗にモモコを出せと迫る激おこプンプン丸の林檎子を巧みにあしらっていた。
益々激高していく林檎子の声はとても怖ろしく、電話口から溢れる怒声にモモコやぽ平次たちはすっかりビビが入り肝をキンキンに冷やしてしまった。
「ッキショー! せっかくコッチは親切にブタモモコと母ブタ幸江を再会させてやろうっていってんのによー! なんでモモコをださねーかなあ!」
と、この林檎子のステ台詞を耳にしたモモコは、次の瞬間桐島から受話器を奪い取っていた。
「あたしモモコです! 林檎子……、お姉ちゃんなのね?」
桐島ら一同は突然のモモコの行動にえっー?となったが、その気持ちは何よりもよくわかった。
「え、モモコ……、ちゃん! ウフフ、モモコちゃんね。よかった、やっとモモコちゃんが電話にでてくれて。そうよ林檎子お姉ちゃんよ! そう以前どこかでお会いしてるわよね。でも、こうしてお話するのは初めてね。アタシとっても嬉しいわ。可愛い妹のモモコちゃんにやっと廻り会えて。そうだ! ねえ、いい? モモコちゃん、これからアタシのうちへ来るのにしなさいよ! 誰かに黒荊のお屋敷っていえばわかるわ。いろいろお話したいことが沢山あるでしょ。ちょうどアタシの誕生会やってるからスペシャルゲストとして是非きて欲しいな。そうそう、それに幸江お母様もとゅくに来てるのよ。あなた最近お母様に会ってないんでしょ。お母様もとても会いたがってるわよ。とりあえず、いいからいらっしゃいなさいよ。てか、来てよ。スグ来てね。スグだからね!」と再度豹変した林檎子のネコナデ声を遮るようにモモコが強い口調で切り出した。
「アタシいくわ! アタシも林檎子お姉ちゃんに話したいことが沢山あるの!」
「どうしたの? モモコちゃん、怖い声……」むしろ林檎子はその返答に嬉しそうにニヤけて答えていた。
「それより、お母さんは! 本当にに幸江お母さんは其処にいるのなの?」
「ああ、ちょっとまってね。(……オイッ、ブタユキエ! 電話でろってよ!)、……じゃ、今幸江お母様にかわるわね(ッて、早くシロ! ったく、テメーは愚図かよう、ボカっ!)」
―― 誰かが電話に代わった気配がした。
「…………、………」
「……」
わずかな息使いが聞こえたとき、モモコは電話機の向こうの人物が誰であるか確信した。

 「お母さん、なのね?」
「……っ、……、あ、あなたはだあれ?」
「お母さん、アタシだよ、モモコだよ!」
「………、モモコ? んっ……、ちゃん? モモコちゃん。……ゴメンなさい、知らないわ? さあ、誰かしら? お母さんって言われても私にはそんな子はいないのよ……。な、何かの間違えじゃないのかしら……」
「やだなあ、モモコだよ! モモコだってば! お母さんでしょ! 絶対お母さんだもん! アタシお母さんの声絶対間違えないもん! 今からそっちいくから待ってて!」
「さあ、全然分らないわね。アタシはあなたのお母さんではありませんよ。モモコちゃんきっとあなた人違いをしてるのね。それよりお家の人が心配してるでしょうから早くお家に帰りなさい。そしてここに来てはダメ! 絶対にダメよ。いいわね。早くお家に、お家に帰りなさい。お願い早くお家に帰えっ……(ガツン! ガッチャーン!)ぎゃあああああ! (このクソ幸江! テメー何余計なこと喋ってんだ! 割とマジで殺すぞボケっ!) ひいーーー、ひぎゃあああああああああ……!」
「お母さん…、お母さんどうしたの? お母さんってば!」ただならぬ事態の変化にモモコがひどく動揺し受話器にすがり付いた。
代わりに林檎子の応答があった。
「アハハ、ゴメンねモモコちゃん。ちょっと幸江お母様がボケたみたいなので一発ツッコンでやったんだけどね、そしたらね傑作なの! 幸江お母様ったら傑作! アハハハハハ、いや何ね、熱湯の入ったティーポッドを幸江お母様の鼻っさきにブチかましてやったのよ、そしたらティーポットが顔面に炸裂して、幸江お母様ったらヤケドしながら鼻血出してのたうちまわっちゃて……。アハハ! は、鼻血がジャムみたいに、紅茶がロシアンティのように真っ赤に……、アハハ、幸江お母様は苦しそうに転げ回っちゃって、ほんと傑作! 傑作! アハハハハ!」
「………………」
モモコはこの林檎子の狂気に満ちた言動と高笑いを聞いてもはや言葉がなかった。とても林檎子がマトモでない、いや桁違いに常軌を逸した異常人物であることを悟った。いやいやもはや同じ人間であるかさえ疑わしく、オニか悪魔かとさえ思えた。実際そうであった。
(アタシ、いかなくっちゃ……なの!)モモコは底知れぬ不安感とただならぬ使命感が自分の胸中に溢れ出すのを感じ取った。
それを見透かしたように林檎子が嘯いた。
「いい、モモコちゃん。よく分ったでしょ。ならちゃんと黒荊の館にくるのよ。でなければ、幸江お母様がもっと傑作なことになるわよ。ガチで笑えない位傑作にね。アッハハハハハハ! ぢゃ、待ってるからスグ来てよ! スグったらスグだからね!(ガチャ!)」
「………………」
そこで電話が終了した。
ぽ平次とのぶちん教授らが心配そうにモモコの傍へ駆け寄った。
モモコは入り口付近に立ちはだかる桐島にきっぱりと断言した。
「アタシ、林檎子お姉ちゃんのいる黒荊の館へいく! いかなくっちゃいけないのなの!」
桐島は少し考えこんだが、「うん……」とだけ静かに頷いた。
「えー、マジですか? モモのだんな! 今度ばかりは極悪林檎子の奴さんに、コ、殺されるかもしれませんぜ!」
「そうだよ、ダメだよ、モモコちゃん、マジで危ないよ! これはワナだよ! 桐島君も何言ってんだい! モモコちゃんを止めなきゃダメじゃないか!」
とぽ平次とのぶちん教授らがこぞって反発した。
「モモコちゃん、10分間だけ待ってくれ!」と言い残すと桐島が部屋をでていった。
残されたぽ平次とのぶちん教授らはしばらく狼狽していたが、
しかし、彼らもモモコの強い眼差しと、その胸にイツになく光り輝くプロシーボ波のペンダントを見ると、何だかモモコにただならぬ可能性を感じとり、モモコの決断を応援する側に回ることにした。

「勇気凛々! ちち元気! モモコ100%!」
そんな、独り言を唱えながら、モモコは物陰で自身のオッパイをモミモミしていた。
これは、モモコが元気と勇気をアップするための秘密のオマジナイなのだ。(詳しくは1話をみてね)
その行為の最中、いろいろな記憶が頭の中に甦ってきた。
母幸江が行方不明になり泣いてばかりいたこと、
母幸江を捜すために冒険の旅にでたこと、実に不思議なバスでなんか不思議な町へ辿りついたこと、
ぽ平次やのぶチン教授との出会い、亡魂帝国軍に収監され桐島に出会ったこと。
そして恩田音太郎とマチ子に身柄を引き取られたこと、家族のように大切にされ、フッキースネちゃんと過ごした楽しい蜜月の日々。
そして、暗転、ブーヒン一味がもたらした大惨劇。
今、モモコは満タンとはいわないが、体力、気力をスペックの平均値以上にまで取り戻しつつあった。
そしてすべての決着に臨むためゆっくり歩みを始めた。恐怖と悲劇の元凶黒荊林檎子のもとへ、そして囚われの最愛の母、幸江のもとへと。
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壮絶の姉妹バトル最終決戦!
もはや逃げ場なし
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