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モモコ2nd ダブルピンチスタンバイ
12話 「林檎子夏の昼下がり 理不尽な狂気、或いは鬼畜の自若」

海水浴からの~、関西への出張と多忙な林檎子であった。
表向きは新規工場建設予定地の視察であったが、本当の目的は別にあり、それは極秘とされた。
その目的とは亡魂帝国海軍との軍事機密に関わるプロジェクトの協力であった。
なんでも人工的に兵士の戦闘力を飛躍的に向上させる「人造甲種強化兵士開発計画」が軍部で秘密裏に進行中で、
薬物、生体改造などによる強化兵士開発プラン、及び具体的な方法論提出の要請を受けてのものであった。
林檎子は3か月をメドに薬剤のサンプルと生体改造実験体の試作第一号の完成を約束した。
それにうってつけであったのが、例の「享楽の実」の恐るべき成分であった。
生身の人間を使った改造実験はかなり非人道的な側面もあったが、これにより黒荊製薬は海軍本部との癒着と莫大もない開発資金を獲得する手筈であった。
といったハードミッションをなんなく終え、一路関西から黒荊家のお家に戻った林檎子。
4日ぶりに紀緒彦に会わす顔をどうしようかなどあれこれ考えながら、

「ただ今戻りました」

と玄関のドアを開けると、家令の野上と家政婦長の岩木がニタニタ半笑いで出迎えた。
「おかえりなさいませ、林檎子お嬢様……。ご帰宅早々お疲れのところ誠に恐縮ですが、大奥様が応接室でお待ちでございますですよ」
「そうですか、お母様が、何か火急の用でしょうか?」
「お客様がお見えでございます。なんでもお嬢様に重要なお話がおありとかでございますですよ」と野上と岩木は何か企むような厭な笑みで応答した。
「……(なるほどロクなことではないな)」
林檎子はこの三輪子の子飼いの使用人野上と岩木がニタニタ喜んでいるのは、おおかた我が身に不利益なことがネタとしてあろうと看破した。
すると
「うっひょひょひょ! いやあ、愉快、愉快! ユカイ、カイカイ、股間もカイカイって、どれ、チミのカイカイなところはどこカイな?」
「いやああ、ちょっとやめてください! きゃー、いやああん、やめてー!」
「も―、嫌ですわー、道満先生ったらー、おヘンタイさんなんですから、もー、オホホホホ」
「アハハ」
「おーほほほほ」
「ひえん、シクシク(泣)」
と屋敷の奥の応接室の方から三輪子や梅園寺家の者の声に交じり、若い女子の叫声に交じり、何やら聞きなれぬ男のゲスで下品な笑い声が実に騒がしく聞こえてきた。
林檎子はさぞメンドクサイ状況であると判断し、とっとと要件を済ませ自室に戻りたいものだと思案しつつ、

コンコン 「失礼します」
ノックをしてやおら礼儀正しくドアを開けると、

そこにはズラリと酒瓶やお寿司や小料理が並んだテーブルに三輪子を始めとする梅園寺家の面々、上座には半泣きのメイドの少女を両脇にはべらせた醜悪な中年の男が鎮座していた。

「林檎子さん、道満先生にご挨拶しなさい!」

「いよう! これはこれは林檎子ちゃん、久しぶりだねえ! いやあ大きくなっちゃってー、随分(胸以外は)成長したねー。ぐひょひょひょ!」

その男、「緋宝満☆教」祈祷師の「緋宝院道満」は食べカスだらけの口元にイヤらしい笑みを浮かべて林檎子の全身を隈なくガン見した。
林檎子はその道満と名乗る者がどこの誰かは分からず、第一印象が実に不愉快であったが、無難に用件のみを済まそうと努めて普通に振る舞うつもりであった。
しかし、林檎子の意思に別の意思が作用し、ここから事態は阿鼻叫喚の地獄絵モードへと転回するのであった。

林檎子はその道満と名乗る者に、まず挨拶として「こんにちは」と言おうとした最初の「こ」のところで、

「こ、……こん、……のインチキクソ野郎!」

と何故かそんな言葉を発したと同時に、テーブルの真ん中にあった御寿司の桶を頭上にまで持ち上げ、大きなフルスイングでその道満とかいう男の頭に思いっきり叩きつけた。

ばっかこーーーーーん!

御寿司の桶はバラバラに砕け散り、5、6人前分はあろう江戸前の上握り寿司が空から降ってきた。

「ほんげっーーー!」

すしざんまいだったその男が寿司まみれになった。
場は何が起こったか分からず一瞬みな思考停止になったが、床にのた打ち回る道満を見て、すぐさま大騒然となった。

「ええええええーーーー!?」
「きゃあああああああ!」
「うわああああああああ!!」

「な、何をするのこのコは!」

すかさず三輪子が大声を上げ、手元にあった杖で林檎子を打ちすえようとした、のだが、
逆にその杖を林檎子はサッと取り上げると、それを武器に続けての攻撃をその男道満に加えるのであった。

「お前みたいなインチキクソエロボケ野郎のおかげで!」

何故か林檎子はブチ切れスイッチが入ったようで、理由も定かでない理不尽な暴力の執行を開始した。
とても正気の沙汰とは考えられず、もはや彼女は気が狂ったか何かに取り憑かれていたかのようでもあった。

バシ、バシ、バシ、ポキ
「ぐひょ、ひょ、ぐひょーーーーっおう!!」

凶器となった三輪子の杖はその打撃の衝撃に耐え切れず、すぐにボキリと二つに折れてしまった。

すると今度は梅園寺家の御婆ソメが木刀(林檎子教育用と書かれた)をゴルフのキャデイがそうするようにそっと裏から三輪子に渡そうとしたのをまたもタイミングよく林檎子が取り上げると、

「はあああーっ!」 

と掛け声とともにまたも道満めがけ大上段から振り下ろした。

グゴキ!!

「ぐひゃあああああああああん!!!」

道満の額に一筋の鮮血がポタリと流れた。

「アっハハハハハハーーーンっ、うーーーん、いい手応え! でも、今のはまだ試し打ちね。次の会心の一撃でそのドタマを粉々にカチ割ってくれるわ。お前みたいなクソ人間は本来殴る価値すらもないのだけれども、世のため人のためのボランティアっていうヤツ? そう今日はまさに文字通り出血大サービスよ! この手で一刀の元叩き殺してやるから覚悟しろよ! この真正クサレアタマインチキエロボケ蛆虫ジジイめっ!」

林檎子は完全にイっちゃっていた。目が異様な輝きを帯びていた。

「うわわああああ!」
「きゃああああ! 大変~!」
「誰か来て~! お嬢様が! 林檎子お嬢様が!」

ガっスーーーーン!
「ぴぎいーーーーーーーーーーーーっ!」

ヒットした箇所からピューピュー血が噴き出した。林檎は心底に嬉しそうにその狂気じみた目を爛々と輝かせると、さらなる一太刀へと振りかぶった瞬間。

「やめるんだ! やめるんだ、林檎子っ!」

すかさず後ろから羽交い絞めにされた。
紀緒彦であった。

林檎子は紀緒彦の存在に気づくと「はっ」となり、そのまま全身から力が抜け、木刀を振り下してその場にしゃがみこんだ。
そのまま紀緒彦はしばらく林檎子の背中をきつく抱きしめた。

「こ、この悪魔娘! 道満先生になんてことなさるの! お前はやはり悪魔の娘よ!」
声を震わせてかなり興奮した三輪子が今度は精神注入棒(林檎子教育用と書かれた錫杖)で林檎子を紀緒彦もろともブチ始めた。
今度は梅園寺家の面々、長女二都子と長男一雅も御婆からそれぞれ渡された指物(布団叩き、ピコピコハンマー、釘バット、グングニル、くるくるチャージキャンディロッドなど)を手にそれに加った。
二都子は罵声を併用し戦闘力旺盛であったが、一雅は林檎子に下心があったため「顔はやめろよ」などといいつつ形ばかりの参加であった。

バシ、バシ、バシン!「どうしてこのコはイカれちゃっんたんでしょうね」
バキ、バキ、バキン!「この悪魔! 悪魔! 悪魔めー!」
ビシ、ビシ、ビッシーン!「 ハハハ……、顔はやめなさい、顔は」

次第に梅園寺家の面々はエスカレートしていった。しかしこの打擲の殆どが林檎子を庇う紀緒彦にヒットした。
紀緒彦は痛みに耐えつつ、声を限りに道満のいる方へ向かって叫んだ。

「お願いです、あなた様はもう帰ってください……、 帰って! もう帰ってください!」

場はこの紀緒彦の思い掛けない一喝に静まった。
梅園寺家の者も我に返ったかのようにこの私刑を取りやめた。

「……やれやれ、林檎子お嬢ちゃんの悪魔は相当のものだ。だが、安心したまえよ、ワシが必ず悪魔を払ってやるぞなもし、待っててチョーダイ、林檎子ちゅわーーん! むーーーん♡ふっひょひょひょひょ!」

そう言い残すと道満はフラフラしながらも自力で立ち上がり、梅園寺家の者らに付き添われて退散していった。

正気を取り戻した林檎子は紀緒彦の行動が意外に思われた。
自分の理不尽な暴力、思えばあの状況で100パー自分が悪い、本当に悪魔の所業ともとれた。にも関わらず紀緒彦は全面的に味方になってくれた。
善悪や立場が分からぬ紀緒彦ではあるまい。そしてなおもうち震える林檎子を慈愛をもって抱きしめてくれる紀緒彦。
「紀緒彦お兄様……」
紀緒彦に対して込み上げる想いを胸に噛みしめ、この愛がさらに深い領域まで到達していくのを悟る林檎子であった。
そして気づいた。この愛の力で満たされ、まるで憑き物がとれたかの如くの清廉な澄んだ今の己の心と身に。
紀緒彦がいればこの先、寸でのところで悪魔や鬼畜にならずに済むかもしれない。その清らかな愛で心が洗われ、ずっと人間らしい心でいられるかもしれない。
だがその愛の浄化とは裏腹に、その意識のほんの片隅で、さきほどあのインチキ男を殴打し頭骨を砕く手応え、その人間破壊という禁忌の快感に微かに魅惑されるのを感じてもいた。

「あなた、いいお話と悪いお話があるのですが」
「うむ、そうか、そうだなここはひとつ悪い話から聞こうではないか」
「実は昼間……、こんなことが」
その夜、黒荊家屋敷で才蔵と三輪子の会話。
「ムハハハ、そんなことがあったのか、そりゃ傑作だ! ムハハハハハハハッ!」
「あなた、笑い事ではありません、ていいますか笑いすぎです!」
「いや、いや、道満先生は災難であったが、おリン坊も元気があって良ろしいではないか!」
「元気はあったかもしれませんが、正気は失ってました、完全に。あれは悪魔が取り付いてるとしか思えませんでした……」
「悪魔ねえ……」
「あなた、今一度お聞きしますが林檎子は本当にあなたの子なのですか? というより本当に人間の子なのですか?」
「ウホン! あー、まー、そのことは何度も説明した通りではないか……。それに例え林檎子が誰の子、何の子であったとしても今の黒荊財閥では絶対必要な重要人物ではないか。黒荊家の将来はすべて林檎子の双肩にかかっているんだからな」
「それはそうですが……」
「なるほど、なるほど、それでまた例の悪魔払いの儀式をさせようというのだな。うーーん、また道満先生祈祷料が高いんだろ。まいったな。しかし、それもいた仕方ないか……」
「いた仕方ございません! 道満先生への治療費と医療費もご用意しなければなりませんですわ」
「ハハハ、……で、それが悪い話だな。では次にいい話を聞こうではないか?」
「それなんですけど、そろそろ林檎子さんにお見合いをさせようかと」
「な、何だって! オイオイ、いい話と悪い話が逆じゃないのか! おリン坊はまだ……」
「林檎子さんは立派な大人のレディとあなたは言いましたわね。では当家のためにも今から許嫁がいて、今すぐにでも結婚も考えてもよろしいのでは?」
「そ、それはそうだが……、本人がなんていうか…、ブツブツ」
「今度の梅園寺家のパーティで会わせたいお人がいるのですが」
「う、うん、むーん、そうだ、林檎子は面食いだから、紀緒彦以上のイケメンでなければ無理だと思うがな、いや絶対無理無理! ムハハハ」
「もちろんそのお方はイケメンに決まってますわよ。お相手は小野寺 助麻呂さん。さるやんごとなき方のご落胤だとか。こちがお写真ですわ」
「ふうん、うひゃ(これはイケメンというよりイカ面だな、ウッハハハハ)なるほどな(林檎子が気に入るわけがないか、こりゃ一安心。ニヒヒヒヒ)まっ、あとは林檎子本人次第だな ムヒヒヒ」
「ついでに紀緒彦さんにも縁談があるのですが」
「何だって、ついでにって、紀緒彦にもか! ついでにこりゃ忙しくなりそうだな……、トホホ」

夏も後半戦でヒグラシが啼く夕暮れ時。
帝都のある大きな邸宅。件の緋宝院道満の屋敷である。
ひとり勉強部屋で分厚い魔法の書を読みふける少女、遠藤魔鬼伽の姿があった。
彼女はふと窓辺に浮揚する人ならざる者の気配を感じた。それは妖精か幽霊のように実体なき思念のみの存在であった。
「ねえ、魔鬼伽聞いて、ゴ子ちゃんお見合いするんだってさ」
「ゴ子ちゃん……? って、リアルの黒荊林檎子ちゃんのこと?」
「本当のリアルはアタシのほうなんだけどな。アタシがリンちゃんで、あっちがゴコちゃんね。紛らわしいから便宜的にそう呼ぼうかと……」
「お見合いですって? ……まさか、あなた何か企んでない?」
「全然、アタシは何にも(ブンブン 首を振る音)」
「……、だとしたらきっとお父様と黒荊の大奥様が何か画策しているわね……。ああ、とても嫌な予感がする」
「ゴコちゃんばかりでなく、紀緒彦お兄様もお見合いするらしいよ。貴族どものよくある許婚捜しだってさ。ゴコちゃんはともかく紀緒彦お兄様が結婚しちゃったら魔鬼伽どうするの? フフン、アタシ知ってんだー! 魔鬼伽も紀緒彦お兄様が……」
「な、何よ! 私は別に! 紀緒彦さんのことは何も…」
「何も……、(ニヤニヤ)」
「もう、消えて! この悪魔!」
「ハイハイ、じゃあまたねー、バーイ!(ニヤニヤ)」

その思念体がすうと消えた後、再び魔鬼伽は夕蝉の音と昼日の余熱がこもった空間に残された自分に問いかけた。

「…………、(林檎子ちゃん、……紀緒彦さん)、…………、私は別に……」

p275
林檎子の結婚話に加え、魔鬼伽、道満、リンちゃん(ブラック林檎子)の三位一体のシンフォニーが悪魔を呼ぶ!?
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