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亡魂女子プロレスの一年を締めくくる恒例の「フォーゲットイヤーワンディトーナメント」もいよいよ決勝戦。クライマックスを飾るに相応しい頂上決戦は「夕月鶴子」VS.「倉成千春」に決定。安定の女大将夕月と最近勢いにノリまくりの倉成のこの一戦はどちらが勝つのか現時点で判断つかず、否が応でも会場のお客さん、亡女関係者の期待と興奮とを最大限にまで集めた。休憩時間を挟み、決勝の試合前に社長上原から改めて大会趣旨の説明があり、マイクで「このカードは私も本当に見たかった試合。楽しみ過ぎて社長やレフリーどころじゃないです」と軽い笑いで客席を和ませていた。その実本当にこの組み合わせには上原個人的にも大層満足げな様子であった。リング下で見守る新宮、結城、葛西ら若手選手らもとても楽しみな表情で両者の入場を待っていた。フィナーレは亡女のメンバー全員がセコンドとなりみんなでリングを囲んでいた。どういう風の吹き回しか、いつもはこういうのに一切絡まない「神崎嶺」も「日向明美」とともに憮然としながらもこの輪に加わっていた。「選手入場! Aブロック代表、夕月鶴子ーっ!」とアナウンスとともに渋めの今どき和楽器アレンジ調のテーマ曲と大声援に送られて、夕月が颯爽と花道からリングに登場した。その入場時の洗練された立ち振る舞いと大人の色気にはファンならずともついため息が出そうになるほどであった。そして「続きましてBブロック代表、倉成千春ーっ!」と対戦者の倉成がアナウンスされた。と同時にリング下に遅れてきた「氷川」と「南郷」が新宮や葛西らを突き飛ばし、決勝のリングのエプロンサイドの陰に駆け寄ってきた。「何なの?」と思わず新宮がいつもとは違う氷川と南郷の格好、怪しげなフェイスペイントとダークな軍服姿(それは処刑帝国ゾーンのほうのバージョン)を見て何やらとても不吉な予感がした。そして倉成のいつものノリの軽い90年代J-POP風テーマ曲ではなく、中二病全開オルタナティブロックが大音量で鳴り響いた。それは倉成のもう一つの顔、ヒールユニット『処刑帝国ゾオン』のテーマ曲であった。とたんに満員のお客さんはイヤな戦慄で騒然となった。そして花道に現れたのはやはり「倉成」のもう一つの顔、『処刑帝国ゾオン総帥 アドミラールQ』の方であった。会場がいっきに「えーええええっ!?」と、「うおおおおおおおおおお!」と疑問と驚愕のパニック状態に陥った。それ以前に亡女関係者は唖然となり、さすがのレフリー社長上原すらも「聞いてないわよ!?」とただ狼狽するばかりであった。只一人対戦者の夕月だけがこのハプニングにも動じることなく、平素の怜悧な眼で不穏なアドミラールQのリングインを見据えていた。突如「うおりゃああーーーっ!」と夕月の背後のコーナーから二名の刺客が襲い掛かった。まさに事態は急展開。アドミラールQの仲間「処刑帝国ゾオン」の氷川と南郷のいきなりの乱入であった。二人は持参したパイプ椅子をこれでもかという位に夕月に叩き付けた。お客さんはさらにイヤな興奮状態となり、場内にブーイングが飛び交った。このゾオン軍の暴挙にここはレフリー社長上原が全力で静止にかかろうとした、のだが、その後ろ髪を件のアドミラールQにがっつり掴まれ、そのまま長い髪ごとフルスイングされ大転倒。そこへ加えてアドミラールQの足蹴り連射からの馬乗りムチ攻撃が上原レフリーに襲い掛かった。あまりの衝撃的な展開に誰しもが言葉を失い思考停止状態となってしまった。せっかくの決勝戦(誰もが正統派プロレスの好勝負を期待)、それがゴングの鳴る前からもうメチャクチャな無法の修羅場であった。なおも制御不能、修復不可能の暴虐を続けるゾオン軍。夕月の右眉の上から流血が見られた。それでもガードに徹し無抵抗でゴングを待つ夕月。お客さんの大ブーイングが大多数の中で、一部のファンがゾオンの悪魔的魅力に魅せられてか、「ゾオン万歳!」、「アドミラールQ様―っ!」などと、どこからともなくゾオン、アドミラールQ=倉成らを支持する声がにわかに上がってきた。リング外の新宮はそんな倉成(憧れの先輩女子レスラー)のもう一つの姿を見て、認めたくはないものの何だかわからない体の震えに血が熱くなるのを感じていた。また傍にいた神崎もまた新宮とは別の理由で密かに握った拳を震わせていた。――結局試合は倉成千春の各種ルール違反による失格となり、よって今大会の優勝者は夕月鶴子に決まった。……何だったんだ? という空気の中、優勝者の表彰と副賞の「歳の瀬冬女」の称号と日帰り温泉旅行券の授与が行われた。挙句夕月本人を始め、誰もが何とも釈然としない結末ではあったが、件の処刑帝国ゾオンのアピール効果は絶大で、この試合を機に熱狂的なファン『ゾオン党員』を大量に獲得し、今後の倉成のカリスマ上昇とともに亡女の一大勢力になっていく予感が窺えた。
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