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JJPW横浜大会後、衝撃の団体追放マッチ(倉成千春、由良まひろ組を相手に)を神崎嶺と勝手に取り決め、その件で亡女代表の上原五十鈴に社長室に呼ばれた新宮真希であった。上原「どうしてもやるのか?」 新宮「止めても無駄ですよ……」 上原「誰も止めないよ。千春や嶺も止めたところで無駄だろうし、第一自分らで決めたことのケジメは自分らでつけてよね!」 「はい、倉成を叩き潰してきちんと自分にケジメをつけます!」 「おまえさあ、千春のことが好きで好きで亡女に入ったんだろ。なんでここにきて千春をそんなに憎む?」 「……あのときは別として、今は心底大嫌いです。倉成は私もプロレスも裏切りました」 「……はあ、何がどう裏切ったか知らないけど、プロレスには正解がないんだ。まだひよっコのお前の価値基準で何が判断できるっていうんだ? 好き嫌いってだけならファンと一緒だぞ、同じプロレスラーとして倉成千春はどうなんだ?」 「倉成はナイですね! イデオロギー的にも、アレルギー的にも!」 「意味わかんないよ。お前的にはもう無理ってこと? 戦うしかないってことだな?」 「はい、倉成をこの手で叩き潰すしか私にはないんです」 「そうか、で、逆に神崎のことは好きになったか?」 「いいえ、相変わらず大嫌いです」 「亡女は?」 「わからなくなりました」 「プロレスはどうだ? おまえにとって今のプロレスとはなんだ?」 「プロレスは好きとか嫌いとかじゃなくて、ただ憎い相手を叩き潰すだけです。それが今の私のプロレスです」 「……ま、さっきプロレスには正解がないといった手前、お前の考えを間違ってるとはいわないが、私の美学に反する答えだな。私的にはとてもブサイクな考え方だと思えるけど」 「私はどうせ外見も中身もブサイクですから」 「確かにな」 「……っ(即答か、少しは否定してよ)」 「昔のお前はまだ可愛気があったかな。面接のときお前はどんなプロレスラーになりたいって言ってたか覚えてる?」 「忘れました」 「そうか、わかった、もういい。やるからには試合頑張れよ」 「フン、……私と嶺さんが負けていなくなればいいって思ってるくせに!」 「そうじゃないって、お前どんだけ頭の悪いひねくれ者のブサイクかつ中身薄っぺらな女になっていくんだよ!」 「はいはい、そこは全部認めます。自分でもよくわかっております。できることならこんな自分の性根を叩き直したいです。でもブサイクは死んでも直りませんが……。それでは以上そんな感じで、これで失礼します……」 バタン! と乱暴にドアを閉め部屋を後にする新宮であった。――「実家のお店のメニューのように、おしゃれでも派手でもないけど、素直で美味しいみんなに喜ばれるプロレスがしたいです!」 (か……) その帰り道に一人で立ち寄ったファミレスで、三年前に亡女の入団オーデションの面接で上原に語ったプロレスの思いを回想する新宮であった。そんなヤケ酒ならぬヤケドリンクバーをあおる新宮に近づく者があった。「あの、亡魂女子プロレスの新宮選手ですか?」  「……」 それは年配の女性と小さな女の子、おそらく家族の祖母とお孫さんであろうか。新宮「はい、亡女の新宮真希です」 「本当にすみません、お食事中のところ、孫が新宮さんの大ファンなものでして」「えっ、私のですか?(えーーー、いるんだそんな神か天使みたいなお方が)」 「しんぐうせんしゅ、さ、さいんしてください」 「いいですよ、カワイイお嬢ちゃま! サインでも婚姻届でも(私がファンになりそうだ。逆にサインして💛)」 この新宮のファンだという女の子は名前を「月島こころ」といい近くに住む小学一年生ということであった。しばらく新宮はこころちゃんとお話をした。「しんぐうせんしゅ、どうしたらつよくなれるんですか?」 新宮「うーーーんと、そうですねえ、体を大きくすることより、トレーニングすることより、人間強くなるにはまず好きなもの、それは人でもものでも何でもいいから、そういう『好き』をたくさん作って、それをもっともっと好きになることかな! うん!」 「すきなひと? すきなもの」 「そうだよ好きな人やものからたくさんパワーをもらうんだ。そうすれば誰だって絶対強くなれるんだよ!」 「ふううん、わかったー!」 「コク、そうだよこころちゃん、いっぱい『好き』を作って強くなってね、私も応援するからね!(何言ってんだ私、私自身がもう好きな人や物なんか何もないのにね……)」 そして新宮は昔、まだ高校生だった頃に見た、ある亡女の試合を思い出していた。それはまだ新人時代の倉成と神崎の試合であった。まだデビューしたてで、二十年に一度の天才的大型新人と呼ばれた神崎は、終止得意の打撃に徹底し倉成を激しく攻めた。そして倉成の空中技にはストイックな神崎は付き合うはずもなく、倉成の攻撃はすべて不発に終わり、なんの見せ場もないまま倉成の形勢は悪くなる一方であった。最後はもろ顔面に入ったハイキックで神崎は倉成から3カウントを奪取。容赦もスキもない神崎のスタイルはこの日会場を大いに湧かせ、後の神崎の大ブレイクのきっかけとなった。そして勝った神崎はマイクを取り「アンタみたいな惰弱な者は本物のエースではない。偽物のお飾りエースが持ち上げられる団体はやはり偽物だ。そんな亡女は私が変えてやる! 本物のプロレス団体を私が創り上げる!」と不遜にも倉成と亡女を全力否定した。「うおおおおおおお!」会場は神崎のキャラと実力を大いに受け入れた! この後ファンの中には倉成から神崎に乗り換える改宗者が続出したという。当時倉成の大ファンだった新宮は初見でそんな神崎をよくよく憎たらしく思えた。確かに倉成は力も技も神崎には及ばない。だけど、神崎にはない、何かがある。その何かが良く分からないのが彼女の魅力であった。いつの試合も心を打つ何か……。それを上手く例えるのは難しいが、おそらく実家の料理店のご馳走に込められた真心的なものと思っていた。それだから新宮は鼻を折り負けてポロポロ涙を流す倉成を暖かく見守り、ファンでいたことを誇らしく思えたのである。……その頃の新宮真希は。……純粋なファンでいられた頃の。――同じ時刻、奇しくも神崎は新宮と同じ試合、倉成と初めて戦った試合を思い出していた。深夜の熱いシャワーに打たれながら。そしてふいに濡れた髪を掻き揚げ、鏡の自分に質してみる。「なんて顔してるんだ。負け犬におあつらえの情けない目しやがって。んん、少し目尻が下がってきたかな……、これって歳のせいか、って、おい! 胸も少し垂れてきてないか? ……っつ! イテ、やっぱり肋骨ヒビ入ってんな……、はあ、ほんと大丈夫か、私、神崎嶺……」などとと運命の対戦を三日後に控え、なんとなく微妙に不安げな新宮と神崎であった。
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